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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)308号 決定

決  定

新宮市新宮上本町一丁目二番地

抗告人

松本茂久

右代理人弁護士

永野彰

主文

原決定を取消し、本件を神戸地方裁判所伊丹支部に差戻す。

理由

抗告人の抗告の趣旨及び抗告の理由は別紙のとおりである。

株式会社の破産は株式会社の解散事由である(商法第四〇四条第一号)が、破産の宣告と同時に破産管財人が選任されるときは清算人の必要がない(商法第四一七条第一項)。しかし、破産の宣告と同時に破産管財人が選任されない同時破産廃止の場合(破産法第一四五条)、その会社に清算事務を行う必要があれば、清算人が必要となる。この場合、破産の宣告がなされ、破産財団を以て破産手続の費用を償うに足らないため同時破産廃止がなされたのであるから、商法第四一七条第一項により、取締役が当然清算人となると解するのは相当でなく、同条第二項により、利害関係人の請求に基き裁判所が清算人を選任すべきものと解するのを相当とする。

これを本件についてみるに、抗告人は、宝塚市小林字野上二六九番番竹中建設株式会社からその所有に係る豊中市大字内田七〇番地の八宅地坪三四坪八合五勺を買受けたことを理由として、同会社を被告として、豊中簡易裁判所へ、所有権移転登記手続請求の訴を提起し、現に右訴訟は同裁判所に係属中であること、及び同会社は右訴訟係属中の昭和三六年二月一七日大阪地方裁判所において破産宣告並に同時廃止決定を受け、同決定は同年三月一四日確定したことは、本件記録上明かであるから、抗告人の本件清算人選任申請は正当である。

よつて、本件清算人選任申請を不適法として却下した原決定を取消し、原裁判所に清算人選任をさせる(報酬予納の上)ため、本件を神戸地方裁判所伊丹支部に差戻すべく、主文のとおり決定する。

昭和三七年三月二七日

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西   勝

裁判官 岩 本 正 彦

抗告の趣旨

原決定を取消し、宝塚市小林字野上二百六十九番地に本店を有する竹中建設株式会社の清算人の選任を求めます。

抗告の理由

一、抗告人は昭和三十四年九月二十九日前記竹中建設株式会社(以下竹中建設と称する)からその所有にかかる豊中市大字内田七十番地の八宅地三十四坪八合五勺を買受けたが、抗告人に対して所有権移転登記手続をなさないので、抗告人は昭和三十六年二月六日竹中建設を被告として豊中簡易裁判所へ所有権移転登記手続請求の訴を提起し、同訴訟は同裁判所昭和三六年(ハ)第五号事件として現在なお同裁判所に係属中である。

二、しかるところ、竹中建設は右訴訟の係属中なる同月十七日従前の本店である豊中市曾根東町三丁目二番地(竹中建設は昭和三十五年十一月十日本店を同所から宝塚市小林字野上二百六十九番地へ移転したものである)を管轄する大阪地方裁判所において、破産宣告並に同時廃止決定をうけ、同決定は昭和三十六年三月十四日に確定した(事件番号同裁判所昭和三五年(フ)第一三二号)

三、そこで、抗告人は前記訴訟受継手続の必要上昭和三十六年六月八日竹中建設の現在の本店所在地を管轄する神戸地方裁判所伊丹支部へ清算人を申請したが、同裁判所は同年十一月十七日前記の決定をなし、抗告人の申請を却下した。

四、しかしながら、破産会社について破産手続が廃止せられたる場合においも、残余財産が存在する限り清算の状態に移行すると解すべきであつて、右竹中建設についても当然にその債務履行のため清算手続を施行する必要があるものといわねばならないのである。そして、この場合においては商法第四一七条第一項に基づく法定清算人が存在しないので、同条第二項により利害関係人たる抗告人の請求によつて裁判所において竹中建設の清算人を選任しなければならないのである。

五、しかるに、同裁判所が右の法理を誤つて、抗告人の申請を不適法として却下したのは不当であるので、こゝに抗告をなす次第である。

《参考》

決  定

新宮市新宮上本町一丁目二番地

申請人松本茂久

右代理人弁護士永野彰

右の者の申請にかかる昭和三六年(ヒ)第一号清算人選任申請事件について、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申請はこれを却下する。

理由

本件申請の要旨は、「申請人は、宝塚市小林字野上二六九番地竹中建設株式会社からその所有に係る豊中市大字内田七〇番地ノ八宅地三十四坪八合五勺を買受けたが、右会はその所有権移転登記をしないので、申請人は豊中簡易裁判所へ所有権移転登記手続請求の訴を提起し現に同裁判所に係属中である。しかるところ右会社は前記訴訟係属中の昭和三六年二月一七日大阪地方裁判所において破産宣告並に同時廃止決定を受け同決定は同年三月一四日確定した。よつて右会社の清算人の選任を求める」というにある。

案ずるに、清算人選任申請は商法第四一七条の規定によるものなるところ同条は合併及び破産の場合を除いている。破産の場合を除いたのは破産管財人が破産財団の管理処分をなすから清算人を選任する必要がないからである。しかしながら破産の場合、常に破産管財人が選任される訳ではなく同時廃止の場合には破産管財人は選任されない。そこで同時廃止の場合について考えてみる。破産法第一四五条によれば裁判所は破産財団を以て破産手続の費用を償うに足らずと認めた場合には破産宣告と同時に廃止決定をなすを要することになつている。即ちこの場合には手続費用不足の理由を以て破産管財人を選任せず破産による清算手続を打切るのである。

このように考えるとき前記の訴訟が係属中であるからとて同時廃止決定により清算手続を打切つた破産者につき再び裁判所が清算人を選任して清算事務を監督するということは破産廃止の規定の趣旨に悖るといわねばならない。

よつて本件申請は不適法として主文のとおり決定する。

昭和三六年一一月一七日

神戸地方裁判所伊丹支部

裁判官 喜 島 秀太郎

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